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3-3 ボーカルレッスン

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箱星
著者
箱星
のんびり暮らしたい。

優しく肩を叩かれた。ひかりだった。

「呼んでるよ」

長いこと思索の世界にいたらしい。気が付くと菫も淳夫もいる。淳夫が呼んでいるらしい。わたしはヘッドホンを外してみんなのところへ行く。

「今日からのレッスンの説明をするぞ」淳夫は喋る。「今日はボーカルレッスンだ。明日はダンスレッスンで、明後日はビジュアルレッスン。そして明々後日は数学レッスンだ」

「数学レッスン?」菫は言った。

「ああ、数学アイドルだから数学力も磨かないとな」

「何をするんですか?」

「証明をするといいだろう。ほら、例のオイラーの等式も証明したことはないだろ?」

「確かに」

「しょ、証明……」ひかりは怯えた顔をしている。

「怯える必要はない。証明があるおかげで数学は絶対的真実になるんだからな」

「私にできるかな……」

「まぁ、オイラーの等式は高校では証明しないからな。そこは難しいのかもしれない」

証明。成り立つか成り立たないかわからない状態から、必ず成り立つ状態にしてくれるもの。オイラーの等式にも証明があるはず。でもそれを、わたしは知らない。

「数学レッスンは明々後日だ。今日のボーカルレッスンに集中するぞ」

「はい!」

みんなでボーカルレッスンをする場所に移動した。

まず最初に発声練習をすることになった。

ひかりの声は明るくのびやかな声。

菫の声はしっかりとした声。

わたしの声は……。

「大丈夫?美悠ちゃん」ひかりがわたしの様子をうかがっている。

「美悠、声を出すんだぞ」淳夫もわたしを見ている。

「あ、あー……」

わたしの声は弱い。あのときと同じだ。これでは上手に歌うなんて……。

「自信もって、美悠ちゃん」ひかりが励ましてくれた。

「そうだよ。美悠、かわいい声してるから」

菫のその発言は意外だった。わたしの声がかわいいと思ったことはなかった。

「アイドルの歌に必要なのはただ上手いだけじゃない。魅力も大事だ。だから美悠、安心していいぞ」

淳夫も応援してくれている。まだ自分の声に自信を持てないけれど、少し安心した。

この後もボーカルレッスンで発声を磨いていった。