事務所に向かって歩く。もう慣れた道だ。考え事をしながら歩く。
宇宙。わたしたちの住む地球には生命がある。他に生命のある星はあるのだろうか。広大な宇宙はどこまで広がっているのだろうか。
数学。代数学の 、幾何学の 、解析学の をつなげる一つの等式。わたしはこの等式の美しさをどこまで理解しているだろうか。
食事。昼は何を食べようか。
「美悠ちゃーん」
声が聞こえる。知っている声だ。
「あ、ひかり……痛!」
電柱に頭をぶつけた。かなり痛い。
「だ、大丈夫!?痛そう……」
「痛い」
「けがはない?」
「大丈夫……」
「ごめんね、私が急に声をかけたから」
「ううん……。考え事をしながら歩いていたせい……」
考え事に夢中になると周りが見えなくなってしまう。気をつけよう。
ひかりと一緒に事務所に向かった。
「美悠ちゃん、一緒に天体観測しようって言ったじゃん。どんな感じでやるの?」
「えっと、街中だと明るすぎるから、遠くに行く。それで、双眼鏡を使って、天体を見る……」
「面白そう!でも夜だよね?遠くに行って大丈夫かな?」
「淳夫にお願いする」
「プロデューサーさんに?」
「淳夫が車を運転する」
「それなら大丈夫そうだね」
そんな会話をしながら歩いた。事務所に着いた。
「私、トイレ行ってくるね」
ひかりより先に部屋に入る。まだ誰もいない。わたしは部屋の隅のソファーに座る。ヘッドホンを取り出し、音楽を再生する。
ダーク・アンビエント。静かで単調な音楽がわたしを包む。宇宙を感じさせる音楽だ。これを聴いていると思考が散らからないような気がする。わたしは思索の世界へと入っていった。