目的の建物にたどり着いた。見上げるほどの大きなビルだ。エレベーターに乗って目的の階に上がる。
合格通知に書かれていた場所はここだ。中に入ると、3人の姿が見えた。2人が私と同じ高校生っぽい女の子で、1人は大人の男性だった。2人もオーディションの合格者なのかな。
「初本、待ってたぞ」
その男性に声をかけられた。この人は誰だろう。オーディションのときとは違う人だ。
「さて、3人揃ったことだし、単刀直入に伝えよう」
私たちの視線が男性に集まる。
「お前ら3人は、これから数学アイドルとしてデビューすることになる」
一瞬理解できなかった。言われた言葉を頭の中で繰り返す。数学アイドル。うん、意味不明だ。
「す、数学アイドルって何ですか!?」
「そりゃ勿論、数学ができるアイドルのことだ」
「なんですかそれ……。ていうか、私オーディションで伝えましたよね?数学は苦手って」
そう、オーディションの最後で聞かれたあの質問。
「初本さんは、数学は得意ですか?」
「す、数学、ですか?得意じゃないです……」
アイドルには一切関係ない質問だと思っていたのに。数学アイドルって、どういうこと?そう思っていると、メガネをかけた長髪の女の子が質問した。
「どうして数学アイドルなのですか?」
「かっこいいだろ?歌って踊れて数学もできる、これが新時代のアイドルだ」
「納得できません……」
私はその子に近寄って話しかけた。
「そうだよね!数学アイドルなんて意味不明だよね!」
「そうですよね」
「数学って難しくてやだよねー」
「いや、私は数学が苦手なわけでは……」
ショック。裏切られたような気持ちになった。でも勝手に勘違いしていたのは私か。もう1人の短髪の女の子を見てみる。黙って聞いているようだ。その子にも話しかけてみる。
「ねえ、数学アイドルってどう思う?」
すると返答は
「いいと思う……」
だった。数学ができないのって、もしかして私だけ?
「まぁ落ち着け。それに自己紹介がまだだろう」
男性が口を開く。確かに2人の名前を知らない。
「えっと、初本ひかりです。ダンス部に入ってて歌うことも好きです!」
「私は有堀菫(ありほりすみれ)です。好きなことは本を読むことです」長髪の女の子も続けて自己紹介をした。
「よろしくね、菫ちゃん」
もう1人の女の子に目線を向ける。
「蛍津美悠(ほとつみゆ)。よろしく……お願いします」
「よろしくね、美悠ちゃん」
「そしてこの俺が、お前ら3人をプロデュースするプロデューサーだ。よろしくな」男性は高らかに宣言した。
数学アイドルのことはまだ納得していないけど、この人が私たちをアイドルとしてプロデュースしてくれる人だ。
「よろしくお願いします、プロデューサーさん!」私は挨拶した。
「よろしくお願いします、プロデューサー」菫ちゃんも続いた。
「よろしく……、淳夫」
私と菫ちゃんは同時に美悠ちゃんを見た。
「おいこら!ここではプロデューサーと呼べ」プロデューサーさんは怒った。