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1-3 数学アイドル

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箱星
著者
箱星
のんびり暮らしたい。

目的の建物にたどり着いた。見上げるほどの大きなビルだ。エレベーターに乗って目的の階に上がる。

合格通知に書かれていた場所はここだ。中に入ると、3人の姿が見えた。2人が私と同じ高校生っぽい女の子で、1人は大人の男性だった。2人もオーディションの合格者なのかな。

「初本、待ってたぞ」

その男性に声をかけられた。この人は誰だろう。オーディションのときとは違う人だ。

「さて、3人揃ったことだし、単刀直入に伝えよう」

私たちの視線が男性に集まる。

「お前ら3人は、これから数学アイドルとしてデビューすることになる」

一瞬理解できなかった。言われた言葉を頭の中で繰り返す。数学アイドル。うん、意味不明だ。

「す、数学アイドルって何ですか!?」

「そりゃ勿論、数学ができるアイドルのことだ」

「なんですかそれ……。ていうか、私オーディションで伝えましたよね?数学は苦手って」

そう、オーディションの最後で聞かれたあの質問。

「初本さんは、数学は得意ですか?」

「す、数学、ですか?得意じゃないです……」

アイドルには一切関係ない質問だと思っていたのに。数学アイドルって、どういうこと?そう思っていると、メガネをかけた長髪の女の子が質問した。

「どうして数学アイドルなのですか?」

「かっこいいだろ?歌って踊れて数学もできる、これが新時代のアイドルだ」

「納得できません……」

私はその子に近寄って話しかけた。

「そうだよね!数学アイドルなんて意味不明だよね!」

「そうですよね」

「数学って難しくてやだよねー」

「いや、私は数学が苦手なわけでは……」

ショック。裏切られたような気持ちになった。でも勝手に勘違いしていたのは私か。もう1人の短髪の女の子を見てみる。黙って聞いているようだ。その子にも話しかけてみる。

「ねえ、数学アイドルってどう思う?」

すると返答は

「いいと思う……」

だった。数学ができないのって、もしかして私だけ?

「まぁ落ち着け。それに自己紹介がまだだろう」

男性が口を開く。確かに2人の名前を知らない。

「えっと、初本ひかりです。ダンス部に入ってて歌うことも好きです!」

「私は有堀菫(ありほりすみれ)です。好きなことは本を読むことです」長髪の女の子も続けて自己紹介をした。

「よろしくね、菫ちゃん」

もう1人の女の子に目線を向ける。

「蛍津美悠(ほとつみゆ)。よろしく……お願いします」

「よろしくね、美悠ちゃん」

「そしてこの俺が、お前ら3人をプロデュースするプロデューサーだ。よろしくな」男性は高らかに宣言した。

数学アイドルのことはまだ納得していないけど、この人が私たちをアイドルとしてプロデュースしてくれる人だ。

「よろしくお願いします、プロデューサーさん!」私は挨拶した。

「よろしくお願いします、プロデューサー」菫ちゃんも続いた。

「よろしく……、淳夫」

私と菫ちゃんは同時に美悠ちゃんを見た。

「おいこら!ここではプロデューサーと呼べ」プロデューサーさんは怒った。