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2-5 輝く月のように

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箱星
著者
箱星
のんびり暮らしたい。

「お前ら!ユニット名が決まったぞ」

プロデューサーが勢いよく帰ってきた。

「決まったんですね!」ひかりは嬉しそうに言う。

「そうだ。おっ、数式の話をしていたのか」

プロデューサーはテーブルの上にある紙を見てそう言った。そこには私たちが談義していた数式「eiπ+1=0e^{i\pi}+1=0」が書かれている。

「オイラーの等式はすごいよな。ネイピア数 ee、虚数単位 ii、円周率 π\pi、乗法単位元 11、加法単位元 00 が一つの式にまとまってるんだからな」

「乗法単位元?加法単位元?」ひかりは初めて聞いた言葉を繰り返す。

11 はかけても変わらない……」美悠が説明する。「3×1=33\times 1=3 みたいに。だから、乗法単位元……」

「乗法っていうのはかけ算のことだよ」私が補足する。

「なるほど?確かに 11 をかけても変わらないね」

00 は足しても変わらないから加法単位元だな」プロデューサーは続けて説明する。

0011 にそんな仰々しい名前がついていたなんて……」

「そんなことより、ユニット名だ」プロデューサーは話を戻した。「お前らのユニット名、それは……」

私たちは注目する。

「……MOONLiGHT だ!」

私はどこかほっとした感覚を覚えた。私たちが一緒になって考えた案が認められたのは嬉しい。

MOONLiGHT の名前の由来は、美悠が月を見ることが好きであることと、私が月の登場する小説が好きであることだ。ひかりと月には関係がなさそうだったが、「月の光」とかけることで解決した。

「ユニット名が決まったから、いよいよ本格始動だな」プロデューサーは語る。「来週からレッスンが始まる。忙しくなるぞ」

今後の説明を受けて、今日のところは解散となった。

「楽しみだね!」ひかりは笑顔で言った。

「そうだね、不安もあるけど」

私の中にある不安はまだ残っていた。数学アイドルで本当にいいのだろうかと。

「大丈夫、前を向いていこうよ」

「ポジティブだね」ひかりの前向きさに感心するとともに、改めて確認したくなったことを聞く。「改めて聞くけど、このユニット名で本当によかったの?」

「うん。月のアクセをもってるからね。それに、美悠ちゃんと月を見る約束もしたから。ね、美悠ちゃん?」

「ん……」美悠はうなずいた。

その後、私は帰宅した。

数学アイドルに対する不安はやはりある。こんな変わった活動をして、友人との約束は果たせるのだろうか。

でも、ひかりが言ってくれたように前を向いていこう。そんな気持ちを抱きながら、私は本を手にした。月が登場する小説である。

月は世界中を旅する。旅の先々で見たことを、月は伝える。

私もそんな存在になれるだろうか。