「お前ら!ユニット名が決まったぞ」
プロデューサーが勢いよく帰ってきた。
「決まったんですね!」ひかりは嬉しそうに言う。
「そうだ。おっ、数式の話をしていたのか」
プロデューサーはテーブルの上にある紙を見てそう言った。そこには私たちが談義していた数式「」が書かれている。
「オイラーの等式はすごいよな。ネイピア数 、虚数単位 、円周率 、乗法単位元 、加法単位元 が一つの式にまとまってるんだからな」
「乗法単位元?加法単位元?」ひかりは初めて聞いた言葉を繰り返す。
「 はかけても変わらない……」美悠が説明する。「 みたいに。だから、乗法単位元……」
「乗法っていうのはかけ算のことだよ」私が補足する。
「なるほど?確かに をかけても変わらないね」
「 は足しても変わらないから加法単位元だな」プロデューサーは続けて説明する。
「 と にそんな仰々しい名前がついていたなんて……」
「そんなことより、ユニット名だ」プロデューサーは話を戻した。「お前らのユニット名、それは……」
私たちは注目する。
「……MOONLiGHT だ!」
私はどこかほっとした感覚を覚えた。私たちが一緒になって考えた案が認められたのは嬉しい。
MOONLiGHT の名前の由来は、美悠が月を見ることが好きであることと、私が月の登場する小説が好きであることだ。ひかりと月には関係がなさそうだったが、「月の光」とかけることで解決した。
「ユニット名が決まったから、いよいよ本格始動だな」プロデューサーは語る。「来週からレッスンが始まる。忙しくなるぞ」
今後の説明を受けて、今日のところは解散となった。
「楽しみだね!」ひかりは笑顔で言った。
「そうだね、不安もあるけど」
私の中にある不安はまだ残っていた。数学アイドルで本当にいいのだろうかと。
「大丈夫、前を向いていこうよ」
「ポジティブだね」ひかりの前向きさに感心するとともに、改めて確認したくなったことを聞く。「改めて聞くけど、このユニット名で本当によかったの?」
「うん。月のアクセをもってるからね。それに、美悠ちゃんと月を見る約束もしたから。ね、美悠ちゃん?」
「ん……」美悠はうなずいた。
その後、私は帰宅した。
数学アイドルに対する不安はやはりある。こんな変わった活動をして、友人との約束は果たせるのだろうか。
でも、ひかりが言ってくれたように前を向いていこう。そんな気持ちを抱きながら、私は本を手にした。月が登場する小説である。
月は世界中を旅する。旅の先々で見たことを、月は伝える。
私もそんな存在になれるだろうか。