この記事は表現論 Advent Calendar 2023 の 1 日目の記事です。
初日ということで、表現論のことをあまり知らない人に向けて記事を書きます。(といっても筆者もあまり詳しくないですが……)
表現論って何? #
表現論とは、大雑把に言えば、「代数系」というよくわからないものを「線形変換」というわかりやすいものに置き換えて研究することです。もっと雑に言えば「対称性」を研究することと言えます。(雑な言い方なので怒られが発生するかも……)
例えば集合 上の全単射全体、すなわち 次対称群 を考えてみましょう。この全単射は 次元線形空間 の基底の入れ替えと考えることで の線形変換に対応させることができます。例えば をそれぞれ に移す全単射があったとき、 の基底ベクトル をそれぞれ に移す線形変換が得られます。これは の点 を に移す変換です。このように の各元に対して線形変換を対応させることができます。対応は一通りではなく、極端な例ではすべての元を恒等写像に対応させることもできます。
表現論では何を研究する? #
次の問題は表現論において中心的な問題と言えます。
- 既約表現をすべて求める
- 与えられた表現を既約表現を用いて表す
既約表現は素数や単純群と似ています。上で例示した対称群の場合、複素数体上の有限次元既約表現はヤング図形を用いて構成できることが知られています。
表現論はどんな分野と関係がある? #
表現論は代数学・幾何学・解析学のすべてと関係があり、さらには物理学とも関係が深い、裾野の広い分野です。筆者はこの幅広さに魅せられました。
一部を簡単に紹介します。
代数学 #
代数系を線形変換に対応させると述べたように、代数学との関係は大きいです。群の他にも、環やリー代数、量子群など様々な表現論があります。
幾何学 #
多様体構造の入った群をリー群といいます。リー群の表現論も盛んに研究されています。
解析学 #
フーリエ変換は解析学の基本です。 上の周期 の連続関数は 上の連続関数と同一視されます。このような関数 に対して
をフーリエ係数といいます。 がいい感じの条件を満たせば
が成り立ちます。これを のフーリエ級数展開といいます。
このことを表現論の観点から見ることができます。 により 上の 1 次元表現 が得られます。実は の有限次元既約表現はすべてこの形であることが知られています。
物理学 #
表現論は物理学とも関係がありますが、筆者はあまり理解していません……。
表現論にはここに書いたこと以外にも様々な側面があると思います。
どんな本を読めばいい? #
(Twitter) のハッシュタグ #私のイチ推し表現論本 を見てみると、様々な表現論の本が紹介されています。
個人的なおススメ本を紹介します。勿論ここで紹介する本以外にもよい本はあると思うので、調べたり人に聞いたりしてみてください。
Steinberg, Benjamin. Representation theory of finite groups: an introductory approach. Springer, 2011. #
筆者はこの本で表現論に入門しました。線形代数と群を知っている人を対象に、複素数体上の有限群の表現論を平易に解説します。
書評はこちらにあります:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sugaku/70/2/70_0702212/_article/-char/ja/
池田岳, テンソル代数と表現論, 東京大学出版会, 2022. #
最近出た表現論の本です。1 年生で学ぶ線形代数の続きとして、対称群や一般線形群の表現論を学びます。最後にはリー代数の話もあります。上の本よりは難しい気もしますが、丁寧に読むことで本格的な数学に入門できると思います。
おわりに #
表現論に入門したい人向けの記事を書きました。筆者は勉強中の身なので不正確なことを書いていたらすみません。一緒に表現論を盛り上げていきましょう。
参考文献 #
- 小林俊行・大島利雄, リー群と表現論, 岩波書店, 2005.
- P. エティンゴフ, O. ゴルバーグ, S. ヘンゼル, T. リウ, A. シュヴェンドナー, D. ヴェイントロブ, E. ユドヴィナ, S. ゲローヴィチ 著, 西山享 訳, 表現論入門, 丸善出版, 2023.