月刊組合せ論 Natori は面白そうな組合せ論のトピックを紹介していく企画です。今回はヤング図形の束を見ていきましょう。
不思議な等式 #
ヤング図形 上の標準タブローの個数を とします。このとき
が成り立ちます。これは不思議な等式で、多くの数学者を魅了してきました。
この等式の解釈はいくつかあります。有名なものはロビンソン・シェンステッド対応です。これは長さ の順列と、サイズ の同じ形の標準タブローの組との間の全単射です。個数を比較することで上の等式が導出されます。
ここでは別の方法で上の等式を解釈します。
ヤング図形の束 #
ヤング図形の束、ヤング束を紹介します。
ヤング図形 に箱をいくつか加えることで新しいヤング図形 を得たとき、 とします。これによりヤング図形全体は poset となります。さらに束 (lattice) になります。これをヤング束といいます。図にすると次のようになります。
(Wikipedia より)
ヤング図形の形式的な和からなる空間を考えます。 を に箱を 1 個付け加えることで得られるヤング図形の和とします。例えば です。また、 を から箱を 1 個取り除くことで得られるヤング図形の和とします。例えば です。 を線形作用素だと思うと、次の式が成り立ちます。
証明するには、ヤング図形の角に注目します。
(赤い丸の個数)-(青い丸の個数)=1 であることを用いると、上の命題が証明できます。そしてこれはマヤ図形を考えればわかります。
いま、 を考えます。 に を 回適用することは、1 個ずつ箱を加えることで得られるヤング図形の列 を考えることに対応します。これは標準タブローを考えることと同じです。よって
です。同様に は から 1 個ずつ箱を除くことに対応するので、これも標準タブローと同じです。よって
が得られました。
一方、 と を用いた計算により
が示せます。これにより最初にあげた等式の証明が得られました。
differential poset #
Stanley はこのような性質をもつ poset を研究しました。
一般の poset において、 が をカバーするとは、 であり、かつ をみたす が存在しないことをいいます。 を をカバーするような の和、 を がカバーするような の和とします。
poset が differential poset であるとは
- は をもつ locally finite, graded poset である。
をみたすことをいいます。ヤング束は differential poset です。
他の例として、ヤング・フィボナッチ束があります。扱う対象は 1,2 からなる数列で、 が をカバーするという関係を
- の左端の 1 を 2 に変えたものが である、または
- の左端の 1 よりも左に 1 を挿入したものが である( が 1 を含まないときはどこに挿入してもよい)
により定めます。
(Wikipedia より)
ヤング・フィボナッチ束も differential poset です。このことから、 から への経路の個数を とおくとき
という式が成り立ちます。
この式をロビンソン・シェンステッド対応のように解釈できないか、と考えたくなりますね。実際に、順列とヤング・フィボナッチタブローと呼ばれるものの組との間の全単射を構成することができます。
r-differential poset #
を正の整数として、 を に置き換えたものを -differential poset といいます。この場合、 となることが示せます。
は対称群の位数でしたが、 は超八面体群の位数です。対称群、超八面体群はそれぞれ 型、 型のワイル群です。さらに のとき はある複素鏡映群の位数となります。
この場合にロビンソン・シェンステッド対応にあたるものを考えてみませんか?
おわりに #
最初にあげた等式やロビンソン・シェンステッド対応は本当に不思議なもので、その魅力はまだまだ尽きません。そのようなことを今後も発信できればと思います。
参考文献 #
- 山田裕史, 組合せ論トレイル, 日本評論社, 2024.
- Stanley, Richard P. Enumerative combinatorics. Volume 1. Cambridge University Press.
- Nzeutchap, Janvier. Young-Fibonacci insertion, tableauhedron and Kostka numbers. J. Comb. Theory, Ser. A 116, No. 1, 143-167 (2009).