月刊組合せ論 Natori は面白そうな組合せ論のトピックを紹介していく企画です。今回は順列について深掘りしていきます。
Statistics
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この記事では順列は (1,2,…,n) の順列のこととします。順列に対して数を対応させる関数のことを statistics といいます。例えば転倒数
inv(p)=#{(i,j)∣1≤i<j≤n,pi>pj}は statistics です。直訳すると統計量ですが、別に統計をやっているわけではないので単に「量」と呼ぶこともあります。
転倒数と並ぶくらい重要な量に、major index があります。順列 p の降下点集合を Des(p)={i∣pi>pi+1} とするとき、major index は降下点の和、すなわち
maj(p)=i∈Des(p)∑iにより定まります。例えば p=31425 のとき Des(p)={1,3} なので major index は 1+3=4 です。
転倒数と major index の間には次のような驚くべき関係があります。
定理: inv と maj は同分布である。すなわち、任意の k に対して転倒数が k である順列の個数と major index が k である順列の個数は等しい。
inv や maj と同分布である量は Mahonian statistics と呼ばれます。
転倒数
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転倒数が k に等しい長さ n の順列の個数 b(n,k) については 2024 年 2 月号の Natori に書きました。
【月刊組合せ論 Natori】転倒数が k である順列の個数【2024 年 2 月号】
ここでは簡単に復習します。b(n,k) の母関数を
fn(z)=k=0∑n(n−1)/2b(n,k)zk=p∈Sn∑zinv(p)としたとき
fn+1(z)=(1+z+⋯+zn)fn(z)という式が成り立つので
fn(z)=(1+z)(1+z+z2)⋯(1+z+⋯+zn−1)となります。
major index
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inv と maj が同分布であることを示すためには、母関数が同じであることを示せばよいです。
gn(z)=p∈Sn∑zmaj(p)とおきます。転倒数の場合と同様、長さ n の順列 p に n+1 を挿入することで長さ n+1 の順列 p′ が作れることに着目します。Des(p)={i1,…,ik} とします。
p′ における n+1 の位置を j とします。j=n+1 のとき、すなわち末尾に n+1 を挿入するとき maj(p′)=maj(p) です。以下では j=n+1 とします。このとき必ず j∈Des(p′) となります。
ある m について j=im+1 のとき、im は p′ の降下点ではありません。im+1 以降は n+1 を挿入した影響で 1 ずつ右にずれます。よって
maj(p′)=i1+⋯+im−1+j+(im+1+1)+⋯+(ik+1)=maj(p)+k−m+1となります。1≤m≤k なので、この値は maj(p)+1 以上 maj(p)+k 以下です。
次に、im+1<j<im+1 と仮定します (ただし i0=−∞ とします)。このとき
maj(p′)=i1+⋯+im+j+(im+1+1)+⋯+(ik+1)=maj(p)+j+k−m+1となります。この値は maj(p)+k+1 以上 maj(p)+n−1 以下です。
さらに、挿入位置が異なれば major index の値も異なります (細かい部分は各自で確かめてみましょう)。以上より、maj(p′) の値は maj(p) 以上 maj(p)+n−1 以下の各整数値をとります。よって
gn+1(z)=(1+z+⋯+zn)gn(z)となります。ここから gn(z)=fn(z) が従います。したがって、inv と maj は同分布です。
別の証明方法として、Foata の全単射と呼ばれるものがあります。これは全単射 ϕ:Sn→Sn であって inv(p)=maj(ϕ(p)) をみたすものです。
一般の数列
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順列の場合を考えましたが、1 が a1 個、…、k が ak 個からなる数列の集合 S 上においても inv と maj は同分布です。母関数は q 多項係数になります。
p∈S∑qinv(p)=p∈S∑qmaj(p)=(a1,a2,…,akn)q特に数が 2 種類の場合は母関数が q 二項係数になります。
その他の Mahonian statistics
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inv と maj 以外の Mahonian statistics はどのようなものがあるでしょうか。次のような量を考えます。
- v=n,n−1,…,1 の順に次を行う。pi=v となる i をとり、pi と pv を入れ替える。コストは ∣i−v∣ である。
コストの総和を sor(p) とおきます。例えば、p=315462 のとき
- 6, 2 を入れ替え、p=315426 にする。コストは 1
- 5, 2 を入れ替え、p=312456 にする。コストは 2
- 4 はそのまま。コストは 0
- 3, 2 を入れ替え、p=213456 にする。コストは 2
- 2, 1 を入れ替え、p=123456 にする。コストは 1
なので、sor(p)=1+2+2+1=6 です。この sor も Mahonian statistics です。
他にもたくさんあります。
- Kitaev, Sergey. Patterns in Permutations and Words. Springer (2011).
の 3.3 を見ると、色々な Mahonian statistics が載っています。
おわりに
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Mahonian statistics を紹介しました。順列の世界はまだまだ奥が深いので、今後も紹介していきたいです。
参考文献
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- Bóna, Miklós. Combinatorics of permutations. 3rd ed.