月刊組合せ論 Natori は面白そうな組合せ論のトピックを紹介していく企画です。今回は代数的組合せ論で非常に重要な 二項係数の基礎を解説します。
最短経路の個数 #
まずは次の問題を考えてみましょう。
有名問題なので、どこかで見たことがある人も多いかもしれません。移動回数が 回で、そのうちの 個を右、 個を上にするので、答えは二項係数 です。
最短経路と面積 #
この問題に少しアレンジを加えてみましょう。最短経路は長方形の内部を通るので、長方形は 2 つに分けられます。下側の部分の面積を考えてみましょう。
上の図の場合、下側の部分の面積は 8 です。
の場合にすべての最短経路について下側の面積を求めてみます。すると次のような分布になりました。
下側の面積 | 個数 |
---|---|
0 | 1 |
1 | 1 |
2 | 2 |
3 | 2 |
4 | 2 |
5 | 1 |
6 | 1 |
これを 1 つにまとめる方法として、多項式を考えるという方法があります。変数は慣習で ではなく を用います。 の係数を下側の面積が である経路の個数とした多項式を考えます。 の場合
となります。
を代入すると係数の和を求めることになります。これは最短経路の総数となるので、 です。この意味で、この多項式は二項係数の一般化になっていると考えられます。この多項式をガウス多項式または q 二項係数といい、 と表します。
と表されることもあります。
二項係数の性質 #
二項係数の性質を見ていきます。
まず係数は対称になっています。これは長方形の上側と下側の対応を考えれば明らかです。
また、 が成り立ちます。これは長方形の縦と横を入れ替えたものを考えればよいです。
通常の二項係数は 2 つの二項係数の和で表されます。 二項係数バージョンでは次の等式が成り立ちます。
これは経路の最後のステップで場合分けすればわかります。この式を用いると、様々な式が帰納的に証明できます。例えば
が証明できます。ここで は 階乗で、 整数 を用いて と定義されます。 階乗や 整数は のとき通常の階乗、整数に一致するので、上の等式は二項係数の表示の一般化となっています。
最後に、二項係数といえばやはり二項定理です。 二項係数の場合、次の 二項定理が成り立ちます。
証明します。左辺の の係数が であることを示せばよいです。 の係数は、左辺の各因子において右側の項を 回選ぶことと対応します。選んだ項を とします。 とおくと、 となり、 となります。 番目の右向きの矢印の高さを とすることで、広義単調増加列 はグリッド上の経路と一対一に対応し、 はその経路の下側の面積となります。よって 二項係数が現れます。
競技プログラミングにおける 二項係数 #
競技プログラミングにおいて 二項係数は上級者向けの知識となっています。例えば以下のような問題と関係しています。
- MojaCoder Grid partitioning
- AtCoder Regular Contest 145 F - Modulo Sum of Increasing Sequences
- AtCoder Beginner Contest 278 Ex - make 1
特に make 1 の解説で詳しく扱われています。
おわりに #
今回は 二項係数の基礎を解説しました。筆者はあまり理解できていませんが、 数え上げの世界は非常に広いです。今後も扱うかもしれません。
お知らせ #
一年にわたり続けてきた月刊組合せ論 Natori ですが、研究と修士論文執筆に集中するため、しばらくの間お休みさせていただきます。
落ち着いてきたら復活する予定ですので、そのときはまた応援のほどよろしくお願いします!
参考文献 #
- Bressoud, David M. Proofs and confirmations. The story of the alternating sign matrix conjecture. Spectrum Series. Cambridge: Cambridge University Press. xv, 274 p. (1999).
- メモ: q-二項係数 - noshi91のメモ